東京高等裁判所 平成4年(ネ)2461号 判決 1992年12月21日
主文
一 控訴人らの控訴に基づき原判決を次のとおり変更する。
1 控訴人らは、被控訴人小椋秀子に対し、各自金四一一万五四二九円及びこれに対する昭和五九年七月二八日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 控訴人らは、被控訴人小椋雅樹に対し、各自金四一一万五四二九円及びこれに対する昭和五九年七月二八日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 被控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。
4 この判決は、前記1、2項につき仮に執行することができる。
二 被控訴人らの附帯控訴をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は第一、二審、本訴、反訴を通じこれを三分し、その一を控訴人らの負担とし、その余を被控訴人らの負担する。
事実
一 当事者の求めた裁判
1 控訴人ら
【控訴について】
(一) 原判決中控訴人ら敗訴部分を取り消す。
(二) 被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
(三) 訴訟費用は、第一・二審とも被控訴人らの負担とする。
【附帯控訴について】
被控訴人らの附帯控訴をいずれも棄却する。
2 被控訴人ら
【控訴について】
控訴人らの控訴をいずれも棄却する。
【附帯控訴について】
(一) 原判決中被控訴人らの敗訴部分を取り消す。
(二) 控訴人らは、被控訴人小椋秀子に対し、各自金九三八万四五三二円及びこれに対する昭和五九年七月二八日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(三) 控訴人らは、被控訴人小椋雅樹に対し、各自金九三八万四五三二円及びこれに対する昭和五九年七月二八日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(四) 訴訟費用は、第一・二審とも控訴人らの負担とする。
(五) 仮執行宣言
二 当事者双方の主張は、次のとおり補正するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決三枚目表八行目「加茂郡」を、「賀茂郡」と、同裏八行目「右肩・右側胸部打撲、下腿部打撲」を「右肩→右側胸部打撲、右下腿打撲」と改める。
2 原判決八枚目裏九行目から末行目にかけて「苦にし」の次に「て抑うつ症に陥り、そのため」を加える。
3 原判決八枚目裏六行目「このことからしても」を「本件事故が原因で自殺したというには余りにも時間が経過しており、」と改める。
三 証拠関係は、原審・当審記録中の各書証目録及び原審記録中の証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 次のように補正するほかは原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決九枚目裏三行目「第五号証」を「第五、第八号証」と、同一〇枚目表一行目「加茂郡」を「賀茂郡」と、同裏六行目「脳波に異常は見られず」を「脳波検査や頭部CT検査によつても異常は認められず」と改める。
2 原判決一一枚目表四行目「しかし、」を削除し、同行目「勝は、」の次に「本件事故前は精神的疾患もなく、明るく、一般的な家庭社会生活を送つていたが、本件事故後は口数も減り、被控訴人秀子や雅樹が共に受傷したこともあつて家庭生活も以前に比べて会話が少なくなり次第に陰鬱なものとなつたうえ、」を加える。
3 原判決一三枚目裏八行目「回答」の前に「拒否的な」を加え、同五行目「今後」を「昭和六一年八月一日より」と、同八行目「結局、勝は」を「また、勝は、石井から工場移転に伴う退職金の優遇制度が存在する旨の示唆を受けたのと、復職したとしても工場移転に伴い転居あるいは単身赴任といつた生活上の負担は避けられないことなどを勘案した結果」と、同一四枚目表一〇行目「いたところ」を「いた。しかし、被控訴人秀子は、勝の右のような状態は本件事故の影響が季節がらたまたま現出しているものと受け止めて、夫がうつ病に罹患したことに想到せず、したがつて、勝もそのころ既にうつ病に罹患していたのに精神科医による治療を全く受けていなかつたところ、勝は」と改める。
4 原判決一四枚目裏末行目「青木の」次に「反対車線への進出という」を加え、同行目「落度のないものである」を「落度のないものであり、しかも、勝が家族連れで海に遊びに行く開放的な心理状態の下に突然遭遇した事故である」と、同一五枚目表一行目「相当の」を「多大な」と、同四行目「他罰的な心理状態」から同七行目「自殺に及んだ」を「昭和六一年三月ころには災害神経症的状態となつて勤労意欲が減退していたところ、同年五月ころから勤務先の人事担当者からも復職のめどを打診されるとともに、復職した場合には工場の閉鎖、移転に伴い川口工場から群馬工場に配転になることを告げられ、復職願を提出したが、会社に受け入れられず、結局本件事故が原因で従前の就業状態に復することができなかつたため、退職優遇措置を利用したものの、結果的には退職を余儀なくされ、再就職も思うに任せなかつたことや本件事故により同じく負傷した被控訴人秀子らとの家庭生活も以前に比べて暗くなつたことなど諸々の要因が重なつたことからうつ病状態となり、その治療も受けないで悶々とした生活が続く中において自殺に及んだ」と改める。
5 原判決一五枚目裏六行目「水野病院」の前に「本件事故前は精神的疾患もなく一般的な社会生活を過ごしていた勝が、妻子共々本件事故に遭遇し、」を加える。
6 原判決一六枚目表一行目の次に「なお、勝は、本件事故後約三年七か月経過後に自殺したものであり、本件事故により、脳の器質的な重傷等身体に重度の後遺症を残して回復の見込みがなく、それが為に今後の社会生活が著しく困難になり将来の希望を喪失させる程度の傷害を負つたものではないけれども、事故と被害者の自殺との間に相当因果関係が認められるのは、事故直後に自殺した場合や右に記載したような程度の重度の傷害を負いそれを苦にした場合に限定されるというべきものではなく、前記認定の事実関係に照らすと、本件事故と勝の自殺との相当因果関係を肯認する防げとなるものではなく、成立に争いのない戊第一号証の一、第三二ないし第三七号証も右認定を左右するものではない。」を加える。
7 原判決二二枚目裏三行目「原告」を「勝」と、同行目「三二二万五一四〇円」を「三一六万六三七五円」と、同四行目「八八三六円」を「八六七五円」と、同七行目「二三一四万七一五二円」を「二二七二万五三九〇円」と改める。
8 原判決二三枚目表二行目「傷害」を「死亡」と、同六行目「四五一四万七一五二円」を「四四七二万五三九〇円」と、同行目と同九行目の「九〇二万九四三〇円」をいずれも「八九四万五〇七八円」と、同九行目から一〇行目にかけて「一八四一万一二〇二円」を「一八三二万六八五〇円」と、同裏六行目「八三一万五二一〇円」を「八二三万〇八五八円」と、同七行目「四一五万七六〇五円」を「四一一万五四二九円」と、同九行目から一〇行目にかけて「四一五万七六〇五円(合計八三一万五二一〇円)」を「四一一万五四二九円(合計八二三万〇八五八円)」と改める。
二 よつて、右と異なる限度において原判決は失当であるから、控訴人らの控訴に基づきこれを主文のとおり変更し、被控訴人の附帯控訴は理由がないからこれを棄却することとし、民集訴訟法三八六条、三八四条、九六条、九二条、九三条、八九条、一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 岡田潤 根本眞 清水研一)